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2009年10月15日 (木)

大宛   幻の汗血馬を求めて…

 太初元年(紀元前104年)、漢の武帝の命を受けた「弐師将軍」李広利は、数万の兵を率いて万里の長城の西の終着駅、玉門関を出立します。

 目指すのは、一日に千里(漢里で約500km)を走るという幻の名馬「汗血馬」の故郷大宛(現在の中央アジア、フェルガナ盆地)です。

 武帝がなぜ名馬を欲したかというと、連年打ち続く北方の騎馬民族『匈奴』との戦いを有利にするためでした。国力を傾けて宿敵・匈奴と戦い続けていた武帝でしたが、防衛戦では有利に戦えるようになったものの、敵地に侵攻して戦局を覆すにはどうしても漢に産する馬では駄目でした。

 軍馬として優秀な蒙古馬を得られない以上、それに匹敵する、いやそれ以上の名馬が必要だったのです。


 「汗血馬」、不思議な名前でしょう。一説には皮膚にいる寄生虫の影響で汗をかくときうっすらと血がにじむために名付けられたとも言われます。現在この地方で産する汗血馬の子孫といわれるアハルテケ種は4152kmを84日間で走破したという記録が残っているくらいですからかなりの名馬であったことは間違いないでしょう。


 
 しかし李広利の第一回大宛遠征は失敗に終わります。罪人や不良少年たちを集めて形だけの軍隊をつくったためか兵の質は最悪で逃亡兵が相次ぎました。タクラマカン砂漠と天山山脈を越える長大な遠征に対する準備不足もあり、食糧にも事欠くありさま。仕方なく撤兵した李広利は敦煌に引き返します。

 報告を受けた武帝は激怒し、「玉門関から中に入れば斬る」と命じました。もともと武帝が李広利に大役を授けたのは、寵姫李夫人の兄だったためで、愛する李夫人の兄に手柄を立てさせてやろうとの考えがあったのです。

 こうなればいくら寵姫の兄とて立場は危うくなります。失敗すれば今度こそ本気で死罪にされるはずでした。

 武帝は、再び李広利に軍を授けます。今度は正規兵六万に三千頭の馬、さらに補給用として十万頭の牛、一万頭のラクダを与えました。


 決死の覚悟で挑んだ李広利は、苦難の長旅を耐えフェルガナ盆地に到着しました。

 大宛はアーリア系民族の国だったと伝えられます。貴山城を治とする王によって統治され、支配下のオアシスは70余、戸数6万、人口30万。馬やブドウを特産とし豊かな国でした。

 突如の侵略者に果敢に抵抗する大宛でしたが、李広利も失敗すれば殺されるので必死でした。包囲は40日余りにも渡って続けられたそうです。


 そしてついに大宛王は漢軍に降伏します。李広利は貢物として得た汗血馬三千頭を従え意気揚々と凱旋しました。しかし過酷な道のりで長安についたころには千頭に減っていたそうです。


 武帝の喜びようは凄いものでした。李広利は功によって淮西候に封じられました。

 武帝は、汗血馬を使って漢の馬の馬格改良に取り組みます。そしてついには匈奴を撃破することに成功したのです。


 一方征服された大宛は漢の保護国となり、その後衰退しました。最後はソグド人の勢力に飲み込まれたと伝えられています。



 最後に李広利のその後を記して終わりにします。紀元前99年(天漢2年)、汗血馬によって馬格が改良された漢の騎兵隊を率いた李広李は、副将で別路をとっていた李陵の軍が匈奴の奇襲を受け全滅、李陵が降伏という事件に見舞われます。


 このときは寵姫の兄という事もありお咎めなしだったのですが、後で考えるとこの事件は人生の絶頂期から転落へのターニングポイントでした。


 征和3年(紀元前90年)、李広利はふたたび勅命を受け匈奴討伐に出兵します。しかしこの時宮中では、広利の縁戚であり丞相であった澎侯・劉屈氂(武帝の甥、劉勝の子)によって、現皇太子を廃し李夫人の子昌邑王・劉髆を皇太子にするという陰謀がなされていました。

 李広利ももちろん一枚噛んでいたと言われていますが、陰謀は間もなく反対派の讒言によって発覚。怒った武帝は劉屈氂の一族と、連座した李広利の妻子をことごとく処刑しました。


 事件の顛末を聞き絶望した李広李は匈奴に投降します。匈奴の王はこれを重用しますが、他の降人の嫉妬を受け讒言され殺されてしまいました。



 幻の名馬、汗血馬。そのために国は滅び、人は殺されました。余談ですが、三国志に登場する名馬『赤兎』はこの汗血馬の子孫だとも言われていますが定かではありません。

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