井上成美の慧眼
海軍きっての知性派で、日独伊三国同盟に米内光政、山本五十六とともに反対し、日本海軍最後の海軍大将、海軍次官として終戦工作に尽力した井上成美(しげよし)。
戦史を紐解いた者なら知らぬものはないほど有名な人物ですが、実は開戦当初の第4艦隊司令長官の時の作戦指導の不手際から私はあまり高い評価していませんでした(ファンの方、ごめんなさい。航空主兵をいち早く主張したことや和平に尽力したことは評価してるんですよ)。
ただ、最近読んだ「ロジスティクス」(谷光太郎著)で彼に対する印象が随分変わりました。
1941年、彼が航空本部長の時に次のような「新軍備計画」を海軍大臣に提出しています。
①航空機の発達した今日、主力艦同士の決戦は絶対に起こらない。
②敵の主力艦が何隻いようと航空兵力が十分であれば沈めうる。
③陸上航空基地は不沈空母であり、海軍航空兵力の主力は基地航空兵力とすべきだ。
④日本の委任統治領であるマーシャル、カロリン、マリアナ諸島はそれに天与の条件を有している。
⑤対米戦はこれらの航空基地のある島々の争奪戦になるであろうから、これらの要塞化を進めるべきだ。
⑥日本の継戦能力は海上ロジスティク線の確保が最重要であるから、これらの護衛兵力を充実する要あり。
現実の戦争は彼の予言通りに進みました。航空戦力の重要性を意見具申したことも重要ですが、何よりも⑥番の海上兵站が日本継戦能力のカギであるという主張は当時の日本(今の日本もですが…)の状況を冷静に分析していてその慧眼ぶりに感心させられます。今の私たちから見ると当たり前のように思えますが、当時の海軍上層部は艦隊決戦主義に凝り固まり、彼の卓見は結局握りつぶされてしまうのです。
日本は資源の乏しい国です。石油やボーキサイト、ゴムなどの戦略物資は言うに及ばず食料なども海外からの輸入に頼らなければ立ち行かない国なのです。日本にとって何が重要かというとこれらの海上通商路の安全確保だということは自明の理でしょう。
しかし、日本海軍が本格的に海上護衛に艦艇を投入し始めたのは商船被害が絶望的に拡大し始めた大戦末期でした。井上成美はその末路を正確に予言し早急な対応を求めていたのです。
しかし直言の士である井上は煙たがられ、その意見が容れられることはありませんでした。
日本の情けないところは、現在のソマリア海賊に対して自衛艦の派遣に反対する者がいることでも証明されるでしょう。彼らは日本の置かれている立場が理解できていない愚か者なのです。そのような馬鹿は、輸入品のない生活が想像できていません。海外からの輸入が途絶えればどうしますか?第2次大戦中のアメリカのように国内でほぼすべての資源が産出される資源超大国ではないんですよ!
歴史に学ばず、現在の状況も冷静に分析できない者達(左翼やマスゴミ)に井上の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです(怒)。
ロジスティクスの分かっている井上に海軍の戦争指導(少なくても兵站部門)を任せたかった!そうすればもっとましな展開(最後は負けるにしても…)になっていたかもしれないと思うと、残念でなりません!
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