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2018年7月 2日 (月)

インカ帝国(前編)

 南北アメリカ大陸に人類が渡ってきたのは氷河期が終わる約1万2500年前より以前だと言われます。当時海退が進みベーリング海峡は地続きでした。ベーリング海峡は現在でも水深42mしかありませんからかっこうの陸橋だったのでしょう。人々はマンモスを追いこの海峡(当時は陸橋)を渡ります。
 南北アメリカ大陸における最初の文化は、確認されている限りだと約1万3千年前のクローヴィス文化でした。これは石器文化でアメリカ西南部ニューメキシコ州からコロラド州あたりが中心だったそうです。人々は恐るべき速度で南下し南米の最南端に1万1千年前から9000年前には達します。最初は狩猟採取生活。その後気候変動もあり、大型獣が取れなくなったことからメキシコ高原でトウモロコシ、ペルーとボリビアにまたがるチチカカ湖周辺でジャガイモ、各地でインゲン豆、カボチャ、唐辛子、トマト、タバコなど南北アメリカ大陸独特の農耕が始まりました。
 農耕によって人々が定住し始めると、集落が形成され首長が生まれます。各首長国では農業生産に差ができ、豊かな集落と貧しい集落ができます。すると持たざる者は持てる者に嫉妬し争いが起こりました。こうして離合集散を繰り返し領域国家が生まれ王が誕生しました。このあたり他の地域と同じ発展過程をたどったと思います。
 ところがアメリカ大陸の人々は、青銅器は知っていてもついに鉄器とくに浸炭法で作られた鋼鉄を最後まで知ることはありませんでした。ただ、剃刀一つ入らないという精密な石壁技術、高度な建築技術など独特な文明を築きます。
 南米大陸は6千メートル級のアンデス山脈が南北を縦断します。山脈の西側は狭く、東側は広かったのですが、アマゾン河という大河が形成する大ジャングル地帯が人類の集住を阻みました。一方、西側も海岸地帯は砂漠が広がりあまり人類の定住に向きません。人々はアンデス山脈の本流と支流の間の高原地帯に住みます。このあたりは3000mから4000mにも達する高原でしたが、空気は薄いものの気候は温暖で農耕に適したのです。
 インカ帝国を興したケチュア族も、このような民族の一つでした。エクアドルからペルーにかけての高原地帯が発祥の地だと言われます。伝説ではチチカカ湖に降り立った神の兄妹が祖先だとされました。最初インカは弱小民族に過ぎませんでした。ケチュア族が12世紀ごろクスコに移動しインカを建国したと言われますが、その前から存在していたという説もあります。ペルーでは海岸地帯のシカン文化をはじめとするプレ・インカの数多くの文化が紀元前から栄えておりインカはそれらの遺産を継承し発展させました。
 インカ皇統記には多くの王が記されていますが、考古学的に確認されているのは第8代ヴィラコチャ王(15世紀頃?)だそうです。当時はクスコ周辺を支配するだけの小国でした。クスコの北西にはチャンカ族という強力な部族がいたそうです。ヴィラコチャ王は強大なチャンカ族の侵略を受け降伏を決意します。ところが彼の次男クシ・ユパンキは父の弱腰を非難し軍勢を率いチャンカ族を迎え討ち、撃破してしまいます。降伏を考えるほどの劣勢を覆すのですからよほど軍才があったのでしょう。
 チャンカ族を滅ぼし、莫大な戦利品と共に凱旋したクシ・ユパンキは兄で王太子だったインカ・クルコを廃し父に強要して王位を譲らせます。これが第9代クシ・ユパンキ王でパチャクティ(革命者)という名前でも呼ばれました。彼がインカ帝国を実質的に建国したと言っても良いでしょう。10代トゥパク・インカ・ユパンキ、11代ワイナ・カパックの時代で、北はコロンビアから南はチリ、アルゼンチンに至る広大なインカ帝国を築きます。
 人口は1200万とも1600万ともいわれる堂々たる超大国でした。インカ帝国はマヤやアステカ帝国とも交易したといわれ、巨大な神殿、ミイラを崇拝する独特の宗教、キープと呼ばれる紐の結び方、数で意思を伝達するユニークな言語、効率的なインカ道路網、莫大な黄金を使った黄金製品など高度な文明を誇りました。
 そんな超大国が、どうしてわずか200名にも満たないスペイン人に滅ぼされなければいけなかったのでしょうか?常備軍10万もいたというのに!
 後編ではインカ帝国の滅亡を描きます。

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