HEAT(対戦車榴弾=成形炸薬弾)の話
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前記事でAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)について触れたので、現代戦車の主要砲弾であるもう一つの主役HEAT(High-Explosive Anti-Tank 対戦車榴弾)について語ります。軍事に興味のない方にはチンプンカンプンだと思うのでスルー推奨です。
HEATはAPFSDSが運動エネルギー弾であるのに対し化学エネルギー弾です。その構造は円柱状の炸薬の先を漏斗状にへこませ、その上に金属製のライナーをかぶせています。さらにこのままでは空気抵抗が大きいので先端に砕けやすいキャップ(無いものもある)を被せています。発射されたHEATは敵戦車の装甲に命中するとまずキャップが砕け散り漏斗部がぶつかります。ぶつかった瞬間炸薬が爆発し漏斗状の中心部に向かって超高速噴流(メタルジェット)が発生。このメタルジェットにより敵装甲を貫通するのです。これをモンロー/ノイマン効果と呼びます。メタルジェットの温度は3000度、その速度はマッハ20にもなるそうです。
メタルジェットはガス噴流だと誤解しやすいですが、これはユゴニオ弾性限界を超え金属が液体に近似した挙動を示しただけです。現在では対戦車で使われるケースが多いですが、成形炸薬弾ですから軟目標にも使えます。この場合当然通常の榴弾よりは破壊力が劣りますが、超高温(一説では500度以上)になって近くにいた敵兵士は焼死すると言われます。アフガンゲリラやシリアの反政府組織がRPG-7などで結構政府軍と対峙できるのはこのためです。最近はHEATにある程度の爆発力を持たせ榴弾と兼用させた多目的対戦車榴弾を装備するケースが多いそうです。
実戦参加は第二次世界大戦。アメリカ軍のバズーカ、ドイツ軍のパンツァーファウストなどが有名ですね。戦後ソ連のRPG-7も弾頭にHEATを採用しています。各種対戦車ミサイルや無感動砲も弾頭はHEATです。HEATの威力は初期のもので漏斗直径の2倍、最近では5~8倍の均質圧延装甲を貫徹できると言われます。理論上の最大貫徹能力は漏斗直径の12倍。
砲弾の特性上、回転しない方が良いので滑腔砲と相性が良いです。ただ最近はライフル砲でも撃てるHEATが登場しました。これは弾殻を内外二重にして外側だけがライフリングで回転する方式で、スリッピング・ドライヴィング・バンドと呼ばれます。ライフル砲で撃つAPFSDSも同じ方式です。
HEATの威力を減殺させるためにはメタルジェットの加害範囲である数十センチ手前に何らかの防御策を施せばよく、ドイツ軍は戦車砲塔の外側にシュルツェンと呼ばれる増加装甲を設けたり、車体側面にもサイドスカートを付けました。イスラエル軍のメルカバ戦車は装甲の数十センチ手前に鎖状のカーテンをつるしています。現在戦車の主流である複合装甲はHEATに対しても強い防御力を持っているため、対戦車にはAPFSDSを使用することが多いそうです。対して攻撃側はタンデムHEATを開発し二重、三重の弾頭で外側の増加装甲を貫通した後主装甲を次の弾頭で貫通するものが出現しました。また、増加装甲を付けにくい車体上面を狙って、発射して命中直前ポップアップする優れものも出ました。このように攻撃側と防御側の技術のいたちごっこは永遠に続くでしょう。
前記事でドイツのレオパルドⅡがA5以降楔型増加装甲を付けた理由を考えましたが、砲塔前面は複合装甲であるものの防楯部は普通の均質圧延装甲で弱点だったためそれを守るために楔型増加装甲を設けたそうです。防楯部に複合装甲を付けるのは難しいんでしょうかね。日本の90式戦車も似た形をしているので心配しましたが、最新の10式戦車に関しては防楯部の防御も2010年までに登場したAPFSDSやHEATに耐えられるそうですから一安心です。未確認情報ですが、一説では90式の防楯はきっちり複合装甲になっているそうです。まあ、軍事機密ですから真相は分かりませんが、信用するしかありません。
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