書評 『アレクサンドロス大王 その戦略と戦術』(パーサ・ボース著 集英社)
ブログランキング参加しました。『ブログランキング』と『にほんブログ村』の2つです。よろしければクリックお願いします。
いつも応援ありがとうございます。
私が世界史上で特に好きな人物は、マケドニアのアレクサンドロス大王(3世)、ローマのガイウス・ユリウス・カエサル、フランスのナポレオン・ボナパルトです。彼らに関する本は何冊も読みました。とくにアレクサンドロスに関しては海外からの翻訳本も含めて10冊以上は読んだと思います。その中で一番の名著はアレクサンドロス大王の部下で同時代を生きたプトレマイオス1世(後にプトレマイオス朝を創設)が記した伝記『アレクサンドロス大王伝』などの資料を2世紀にアッリアノスが纏めた『アレクサンドロス大王東征記』です。
ヤフーブログ時代に紹介したと思いますが、本ブログでもアレクサンドロス戦記シリーズを書くときの基本資料にしました。それくらい同時代を生きたプトレマイオスが見たアレクサンドロスの息吹を感じられる第一級資料だと思います。日本においては元陸上自衛隊陸将補の松村劭(つとむ)氏が記した一連の著作が出色です。特にサリッサという5mの長槍を装備した軽装の精鋭歩兵部隊ヒュパスピスタイの重要性を日本で指摘したのは松村氏が初だったと思います(私の記憶する限り)。
世界史やアレクサンドロス大王に詳しい方ならご存知だと思いますが、マケドニアの必勝戦術は『ハンマーと金床』と呼ばれるものです。これはサリッサを装備した重装歩兵ペゼタイロイを金床として敵を拘束し、両翼の重装騎兵ヘタイロイが側面から包囲し敵軍を覆滅するという戦法でした。アレクサンドロス大王の父フィリッポス2世が当時のギリシャの覇権国テーベの人質時代、テーベの指導者エパミノンダスの斜線陣から学び発展させた戦術でした。
ただ、ファランクスという長槍密集歩兵陣を組む重装歩兵は動きが鈍重で、両翼の騎兵との間に致命的間隙を生じさせかねません。敵に慧眼の将がいればその間隙に部隊を突入させ歩兵と騎兵を分断、各個撃破することが出来ます。精鋭軽装歩兵ヒュパスピスタイはその間隙を作らないために工夫された兵種でした。騎兵の突撃時はファランクスとの間に散開し敵の突撃を防ぎ、いざ全面攻勢時になると攻撃に参加します。ファランクスと重装騎兵の間の言わば接着剤となるのがヒュパスピスタイでした。
ただ『ハンマーと金床』戦術は高度な指揮能力が必要なため、実質フィリッポス2世、アレクサンドロス3世の親子二代しか機能しませんでした。彼らの後継者であるプトレマイオスやセレウコスなどの時代には、金床のはずのペゼタイロイが決戦兵種になるほど退化します。硬直化したマケドニア流の戦術はより柔軟なローマ式のコホルス(歩兵大隊)戦術に敗れ去るのです。
前置きが非常に長くなりましたが、本書はインド系のパーサ・ボースが記したアレクサンドロス大王の伝記というよりはそれをベースとしたビジネス書です。史実のみを追いたい私としては非常に読み辛い本でした。アメリカやイギリスの経営者がどう決断したとかは別にどうでも良い話ですから。アレクサンドロスの記述は480ページのうち半分ほど。ですからビジネス書の部分は読み飛ばしても良いくらい。私も途中からアレクサンドロスに関係ない話はスルーしました。
という事で評価は良くもなく悪くもない、並です。ただアレクサンドロス大王が本格的に活躍する前、フィリッポス2世時代の話は面白かったです。当時のギリシャ世界の情勢とかある程度知ってはいても興味深いものでした。それから苦言を一つ。著者がインド出身とあってインド関係の記述が甘いのは気になりました。そこまで当時のインドが素晴らしかったとはとても思えませんでしたから。文明世界の一つだったことは認めますが…。まあ気持ちは分かるんですがね。
アレクサンドロス大王の事績をビジネスにどう応用しようかという人には良い本だとは思いますが、純粋にアレクサンドロス大王の歴史を読みたいという方にはお勧めできません。という事で最終評価は中の下くらいかな?
« ロシアは核兵器を使えない? | トップページ | 台湾有事が刻一刻と近づいて来ました »
「日常」カテゴリの記事
- 書評『兵站』(福山隆著 扶桑社)(2024.12.03)
- 危険な地名 その2(2024.11.28)
- 国際ロマンス詐欺?にご用心(2024.11.03)
- 日本保守党の公式イラスト?(2024.11.01)
- ライスマウンテン、詰んだか?(2024.10.29)
コメント